「賢者は橋を架け、愚者は壁を作る」ブラックパンサー鑑賞レビュー

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マーベル・シネマティック・ユニバースも今やかなりの大所帯。
ファンの間ではよくどのヒーローが好きかという話題になるが、私は迷わず『ブラックパンサー』を推したい。

2018年3月1日の公開日に早速鑑賞してきたが、MCUのヒーロー単発映画としては2番目に好きな作品になった(一番好きな作品は『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』)。

私は記事執筆時点で吹き替えと字幕でそれぞれ1回ずつ鑑賞している。

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舞台はアフリカの秘境『ワカンダ』

世界唯一のヴィブラニウム産出国

ワカンダは太古の昔、巨大な隕石がアフリカの地に落下し、その場所に複数の部族が一つの国を形成したという歴史がある。

表向きには貧しいアフリカの農業国で通っており、国際社会でも特にこれといって見向きもされないワカンダだが、この隕石というのがキャプテン・アメリカの盾にも使われている希少金属ヴィブラニウムの巨大な塊。

どれくらい巨大かというと、後述するユリシーズ・クロウによればその埋蔵量たるや何千年に渡って採掘してもまだ表面を撫でた程度のものであるというもので、その豊富な資源の恩恵による経済的豊かさも然ることながら、ヴィブラニウムの研究開発によって飛躍的な科学的発展を遂げている。

その科学力はこれまでマーベルの技術力の象徴的な存在であったトニー・スターク(アイアンマン)すら凌駕するといっても過言ではない。

実はワカンダという国名自体は2015年に公開された『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で言及されており、そこで武器商人にヴィブラニウムが強奪されたということが言われている。

隠された国

希少金属ヴィブラニウムとそれによる超科学の存在が公になれば悪人に狙われる危険性が増す。

そのため古くからワカンダは諸外国を信用せず、長きに渡って国の存在自体を秘匿してきた歴史があるが、ワカンダは近年この考えを改めるようになり、あくまでアフリカの一農業国であるという仮面を被りつつも、国連の総会に出席するなど外の世界に対して歩み寄りの姿勢を見せている。

ただ全く外の世界を知らなかったのかというとそうではなく、むしろ世界中の国々にスパイを放って諸外国の動向を常に監視し、積極的に各国の情報を取り入れつつ強かに立ち回ってきたのである。

しかし、そう考えると圧倒的な超技術を持ちながらヒドラの企みやチタウリの侵攻といった世界の危機にも目をつむっていたことになる。

この姿勢が今作で尾を引いてしまうことになるのだが……

科学と伝統が入り混じる

世界基準の数十年先を往く超技術を持つワカンダではあるが、長い間他国の干渉を避けてきただけあって文化はかなり独特である。

複数の部族が入り混じって生活しており、その頂点に立つワカンダの国王に即位するためにはブラックパンサーの儀式で各部族や王族から名乗り出る挑戦者に打ち勝つ必要がある。

技術レベルは先進的にもかかわらず、国の統治者の選出方法は前時代的を通り越して原始的とすら言える。
各部族の代表者による少人数の話し合いの場はあるものの、映画を見る限りは議会制民主主義も確立されておらず、国王の独断で物事が進んでしまう。

このようなどこかチグハグな文化はいかにもアメリカ人が考えたアフリカの秘境という印象を受ける。

ブラックパンサーというヒーロー

国王として

今作の主人公ブラックパンサーことティ・チャラにはワカンダ国王というもう一つの顔がある。

ブラックパンサーはMCUではすでに「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」で出演を果たしているが、そこで先代国王である父親をテロの巻き添えで亡くしたため、ワカンダの国王に即位することになる。

期せずして国王に即位することになったティ・チャラは今後の外の世界との付き合いに思い悩むことになる。

過去の因縁と向き合う

ワカンダ前国王にして先代ブラックパンサーであるティ・チャカには文字通り墓場まで持ち去った秘密があった。

やむを得ない状況の中で偶発的に起きてしまったことではあるのだが、この時の不始末が遺恨を残してしまうことになり、息子ティ・チャラの代で大きな影を落とすことになってしまう。

父親が残した負の遺産、そしてこれまで外界に不干渉を決め込んできたワカンダのあり方と向き合うティ・チャラの姿は今作の見所の一つ。

ティ・チャラという男

『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』で父であるティ・チャカを喪い、一時は復讐心に囚われかけるも最終的にはそれを克服する。

世界から追われる身となったキャプテン・アメリカやバッキー、その仲間たちを自国に匿ったり、重症を負ったロス捜査官を諜報員であることも顧みずにワカンダに連れ帰って治療するなど懐の深い人物。

『シビル・ウォー』では常に表情が険しかったが、今作では本来の心優しい性格を取り戻しており、仇敵や自らを狙った敵であっても手にかけずに償いのチャンスを与えたり、これまでの伝統に囚われることなく負の歴史ともきちんと向き合ってそれを清算するなど、キャップに並ぶ高潔な精神の持ち主として描かれている。

家族や部下、国民のことを常に気にかけ、祖国を愛する理想的な国王である一方で、妹と軽口を叩き合ったり、元恋人との関係に思い悩んだりと我々と同じような感覚の親しみやすさも兼ね備えているところも大きな魅力である。

ワカンダの科学技術

ここまで散々ワカンダの科学技術の凄まじさについて言及してきたが、それがどれくらいすごいか少し紹介したい。

ヴィブラニウム

ワカンダ発展の礎となった稀少鉱石。

他のMCU作品においてはキャプテン・アメリカの盾やヴィジョンの素材、『アイアンマン2』から『3』までの間、トニー・スタークが胸部に付けていたアーク・リアクターの触媒としても使用されている。

あらゆる衝撃を吸収する性質を持ち、銃弾やグレネードといった近代兵器など目ではなく、ビーム兵器ですら傷ひとつ付けられない地上最強の金属。

これほどまでの強度を持ちながら通常の金属よりも軽量かつ、金属探知機にも引っかからない。

キャップの盾はトニー・スタークの父、ハワード・スタークが偶然成形したという代物であるが、ハワードですら偶然盾の形にするのがやっとだったのだ。

それを自由自在に加工できるワカンダの技術力の凄まじさがわかるだろうか?

ブラックパンサースーツ

全身ヴィヴラニウム製であり、強度と防御力だけならアイアンマンスーツの比ではない。

武装は基本的に爪だけだが、この爪も当然ヴィブラニウムなのであらゆるものを引き裂く。
『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』ではキャップの盾に傷を付けた。

『シビル・ウォー』時点では普通に着用しなければならなかったが、今作では牙型の首飾りに仕込まれたナノマシンによって装着者の意思で一瞬で装着可能になるという、まさに変身ヒーローそのものとなった。

また、今作においては敵の攻撃によって発生した衝撃をエネルギーとして溜め込み、それを衝撃波として放出するという機能まで追加され、まさに攻防一体の万能スーツと言える。

だが金属という性質故なのか電撃には弱いようで、『シビル・ウォー』ではブラック・ウィドウが放った電撃によって足止めを食らっていた。

キモヨビーズ

ワカンダの人たちが手首に巻いている一見ただの黒い数珠玉だが、立体映像を投影できる高性能の通信機であるほか、脊椎損傷という致命傷に対しても傷口に埋め込むと一時的にではあるが容体を安定させるという、もうなんだかよくわかんないオーパーツ。

そしてこの通信機能だが、なんと範囲無制限

『スパイダーマン/ホームカミング』時点のトニー・スタークですらアイアンマンスーツの遠隔操作を行うためにはパーティ会場のWi-Fiを使用する必要があったと言えば、この技術の凄さがわかるだろう。

さらに自動車にくっつければ駆動を停止させたり、韓国を走行する車両をアフリカの地ワカンダからタイムラグなしで遠隔で運転することも可能。

この数珠玉、本当になんなんだ。

ハート型のハーブ

科学技術とは言えないかもしれないが、一番の重要アイテムなのでこれも紹介しておく。

ワカンダ王家に代々伝わるブラックパンサーの力の源であり、飲んだものの身体能力を高める効果がある。

どれくらいのものかというと、登場作品の描写だけ見ても高速で走行する自動車やバイクを追い越すスピードでダッシュしても息切れせず、数メートルある場所でもひとっ飛びで移動できるといった人間離れした挙動が可能になる、言うなれば天然の超人血清。

つまりブラックパンサーはキャプテン・アメリカに匹敵する身体能力とアイアンマンを凌駕する防御力を有したヒーローであると言える。

ちなみに王位継承の儀式の際には、このハーブの効果を消失させる薬を飲むことで挑戦者との条件を対等なものにする。

ここはあらゆる不純物を無効化する超人血清との違いであると言える。

儀式を乗り越えて王位を継承する者はこのハーブを口にして、一度生き埋めにされて眠りにつくのだが、眠っている間に死者との対話が可能になる。
そしてその眠りから覚めた時、無敵の戦士ブラックパンサーが生まれるのである。

魅力的な登場人物たち

今作はアフリカが舞台であるだけにアメリカ映画としては珍しく、メインの登場人物のほとんどをアフリカ系が占めているのが特徴である。

ここでは今作の主だった人物たちをピックアップして紹介する。

オコエ

女性だけで構成された王族親衛隊の隊長であり、王族に対する忠誠心は本物。

その戦闘能力は特殊能力を持たない人間の中ではMCU最強クラスといってもよく、ブラック・ウィドウにも引けを取らないと言ってもいい。

ナキア

世界各地で諜報活動に従事する女性スパイ。

使命感と正義感に厚い女性であり、外の世界でアフリカ系が置かれている現状に見て見ぬ振りができず諜報活動と並行して難民の支援も行っている。

元恋人であるティ・チャラは寄りを戻したいと願っているが、自国の保護を第一としなければならない王としての立場が今一歩壁となってしまっている。

シュリ

ティ・チャラの妹。若干16歳にして技術大国ワカンダの研究開発を取り仕切る天才科学者。

ブラックパンサースーツをはじめとするワカンダの武器開発にとどまらず、ヴィブラニウムの医療利用など、これまでMCU最高の頭脳と目されてきたトニー・スタークすら超え得る存在。

メタ的なことを言えば『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編を最後にトニーを演じるロバート・ダウニーJr.が降板してしまうため、今後のアベンジャーズのメカニック枠に収まると思われる。

伝統を笑い飛ばし、斜に構える姿はいかにもティーンエイジャーらしいが家族や国を愛する気持ちは本物であり、自分たちを脅かす敵には敢然と立ち向かう人物。

いわゆる今作におけるゲスト声優枠でもある。
滑舌などは悪くなかったが、キャラに対して声のキーがいささか高く、今作の錚々たる吹き替え陣とMCUの重厚な世界観の中ではどうしても浮いてしまってる印象は拭えない。

登場シーンもそれなりに多いほか、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』での続投も決まっている。
気になる方は字幕での鑑賞を推奨。

エムバク

ワカンダの中央とは長い間距離を取ってきた部族の長。
ティ・チャラの王位継承に待ったをかけ、ブラックパンサーの儀式に挑戦する。

閉鎖的なワカンダにおいてさらに閉鎖的な部族の長ということもあって性格は頑固だが、自分の負けを認める潔さと、貸しはきちんと返す律儀さも併せ持っている。

また物語終盤では大きな役割を果たすことになる。

エヴェレット・ロス

『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』で対テロ合同チームを指揮していたCIA捜査官。今作では数少ないヨーロッパ系の登場人物。
今作ではユリシーズ・クロウ追跡任務の中でティ・チャラと共闘することになり、図らずもワカンダの情勢に深く関わることになる。

初登場時は官僚的で小物然とした印象を観客に与えていたが、今作ではそのイメージを見事に一蹴しており、本来は何の関わりもないアメリカ人でありながらワカンダに迫り来る脅威に立ち向かう姿は「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」におけるファルコンを彷彿とさせる。

演じたのはマーティン・フリーマン。
ドラマ『SHERLOCK』ではホームズの相棒ワトソンを演じているが、MCUではホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチがドクター・ストレンジを演じている。

この先の共演の可能性に是非期待したいところである。

キルモンガー

今作におけるメインヴィラン。

アメリカ海軍特殊部隊にて従軍後、MIT(マサチューセッツ工科大)を卒業するという凄まじい経歴の持ち主。
とある因縁からワカンダに対して強い恨みを抱いており、王座奪取を企てる。

余談だがMITを卒業しているということはトニー・スターク(アイアンマン)の後輩にあたることになる。

『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』のジモ以降、MCU作品におけるヴィランたちの魅力も大きく増した印象を受ける。

悪役たちも最初から悪に染まっていたわけではなく、そうなるまでの経緯も丁寧に描かれており、このキルモンガーもその一人である。

もしあの時別の行動を取っていたら……。
もしかしたら別の道があったのではないか?

しかし、このヴィランがいたからこそ、ヒーローもまた成長できた。

まさに魅力的な悪役だ。
いずれも使い捨てにするには惜しい存在なのでヒーローたちの活躍と合わせて注目してほしい。

ユリシーズ・クロウ

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で初登場した武器商人。
トニー・スターク曰く「イカれたヤツ」。

この時は激昂したウルトロンに左腕を切断された哀れなチョイ役程度の認識しかなかったが(今作でクロウの左腕が義手なのはこれが原因)、今作でそれは見事に覆された。

ワカンダからヴィブラニウムを強奪した犯人であり、盗んだヴィブラニウムや武器を世界中で売りさばいて荒稼ぎしている。

外界からの侵入者を寄せ付けず、万が一入国できたとしても必ず捕らえて始末することによって自国の安全を守ってきたワカンダから本作まで逃げ果せたツワモノであり、そう考えるとマキシモフ兄妹の前で一切動じない胆力にも合点が行く。

そして、クロウを演じたアンディ・サーキスがスター・ウォーズ7作目から登場した悪の親玉、最高指導者スノークを演じていたことを今更ながらに知って驚いた。

単なる娯楽作品の域を超えたメッセージ

現実の世界情勢との繋がり

Miconote2
この記事のタイトルに入れた「賢者は橋を架け、愚者は壁を造る」という言葉は劇中でティ・チャラが発した言葉なのだが、これは今まさに世界が直面している問題に繋がる。

世界規模の大戦はなくなったものの依然として領土問題、宗教対立、テロといった諍いは今も頻発しており、特に近年は多くの国で自国の保護の流れに傾きつつある。

自国第一主義を貫いてきたワカンダはまさに現実のこういった国々と重なる部分があるが、ティ・チャラはこの伝統に終止符を打つことを決意する。

これもティ・チャラの言葉だが、我々人間は本来、違いよりも共通点の方が多いのだ。

ブラックパンサーは単なるヒーロー、アクション映画にとどまらない、世界に住む我々全てに対するメッセージが込められた作品であるように感じられた。

#ワカンダフォーエバー

ワカンダの挨拶。
ワカンダには自国の言語もあるのだが、象徴となる言葉は何故か英語である。

吹き替えだけかと思ったらオリジナルでも英語で言っていたが、そんな細かいことは置いておこう。

もちろんワカンダは架空の国だが、ツイートにもあるようにアフリカ系のアスリートたちが自分のアイデンティティやルーツに誇りを持つようにこのポーズを取っていることに『ブラックパンサー』という作品の力を感じる。

作品の外でも多大な影響を与え続ける『ブラックパンサー』はMCUの一作品という枠に止まらない映画史に残る名作と言っても過言ではない。

さあ、あなたもやってみよう。
ワカンダフォーエバー!

右腕が前に来る点に気をつけよう。

まとめ

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』公開前最後のヒーロー単独作品である「ブラックパンサー」。

もちろん、これまでのMCU作品を観ているに越したことはないし、知っていた方が「これ、あいつじゃん!」とテンションが上がることは間違いないが、ブラックパンサー以外のヒーローは出てこないし(エンドクレジットは除く)、過去作での出来事も今作の本筋には絡んでこないのでMCU初心者が入る作品としてもおすすめできる一本となっている。

是非とも、この作品を観てインフィニティ・ウォーに備えてもらいたい。

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